機能和声とは
保育実習理論の問1でよく出題されるのが、楽譜の穴埋め問題です。伴奏を選択肢の中から、1小節分を選ぶ問題です。今回は、その問題に答えるために知っておくと良い機能和声について見ていきたいと思います。実際はこの知識がなくても答えを導くことは可能ですが、知っている方が問題を解きやすいですし、実際に演奏しなくてはならない時などにも便利ですので、知っておくと良いと思います。
とはいっても機能和声とはなんなのかイメージがわきにくいと思います。言葉で言うと文法のようなものです。主語のあとに述語をもってくるといった文法とすこし似た部分があります。つまりこのコードの後にはこのコードが繋がるといった具合です。
ただ、保育実習理論で出題される楽譜には、コードが書かれていないものも多いかと思います。コードが書かれていなく、ただ音符で伴奏の選択肢が書かれているだけ……。それでも、いままでのこのブログの記事で学習した方なら、楽譜に音符が書かれていれば、それがどのコードなのかを分析することは可能です。ただ、分析している時間は試験中にあるとは思えませんので、機能和声を理解し、この和音がくるのではないかという予想をたて、その上で選択肢を絞っていくということが、答えに導く一つの方法なのではないかと筆者は考えています。
それでは早速機能和声についてみていきます。
音の機能
ここではハ長調を基本に考えていきます。もちろんほかの調でも良いのですが、一番わかりやすいためです。ハ長調はドレミファソラシドで構成された調です。
下記にひとつ楽譜を示します。
ⅠⅡといったローマ数字がそれぞれの音に書かれています。音に番号がついているのです。そして、この番号で機能を分けています。具体的にはトニック、ドミナント、サブドミントという名前です。これらについては後で詳しく述べますので、名前だけ覚えてください。
それぞれ、ⅠⅢⅥがトニック、ⅤⅦがドミナント、ⅡⅣがサブドミナントの機能を有しています。
トニック ドミナント サブドミナント
先ほど述べたばかりですが、聞きなれない言葉ですね。これは、いわゆる主語と述語と補語のような名前とご理解ください。機能和声は、この3つが進行していくことで成り立っています。そして、覚えなくてはいけない文法は3つです。トニックはT、ドミナントはD、サブドミナントはSと略すことが多いので、ここでもそう略します。
・T→D→T
・T→S→D→T
・T→S→T
機能和声としては、この3つが基本です。覚えることはそんなにありませんね。むしろ、コードひとつひとつを覚えてきた今までの方が膨大な知識だったようにも思います。
それでは実際にこの進行がどういったものなのかを、実際の音を聞き、そして楽譜をみながら理解していきたいと思います。もっとも単純な形で見てみたいと思います。
T→D→T
これがもっとも単純なT→D→Tのコード進行です。実際に音をきいてみると、安定→緊張→安定という流れがなんとなくわかるのではないでしょうか? 真ん中のG7コードがハ長調ではドミナントの役割をもちます。ドミナントはより安定しているトニックの和音に進行しようとします。この不安定と安定の行き来が機能和声といってもいいでしょう。ちなみに先ほどの数字で表すとするならば、Ⅰ→V7→Ⅰです。このように表されることもあります。このローマ数字で表す理由は、どの調に移調しても、このローマ数字をみればコードがわかるからです。もっと具体的に述べるとすれば、C→G7→Cというハ長調におけるT→D→Tを、たとえばホ長調にしてみましょう。そうすると、E→B7→Eです。ホ長調はミファ#ソ#ラシド#レ#ミですね、つまり、ミ=E=Ⅰ、シ=B=Ⅴとなります。この関係性を覚えることができていれば、どの調に移調したとしても、ローマ数字がわかれば、コードを導き出せるということです。実際に演奏する場面があるととても便利ですね。
T→S→D→T
こちらはT→S→D→Tの楽譜です。ローマ数字で表すならば、Ⅰ→Ⅱ→Ⅴ7→Ⅰで、コードで表すならば、C→Dm→G7→Cです。Ⅱ→Ⅴ7のながれは、とてもよく使われるコード進行で、ツーファイブと呼ばれることもあります。ちなみに、セブンスが付くかつかないかはどちらでもよいそうですが、特にⅤ7は増4度音程が含まれており、つぎのⅠに解決する際に2つの音が半音進行することでⅠに動けるため、よりⅠへの解決の力が働くものと言えます。具体的にはG7のシとファがⅠのドとミに進行することで解決感が増すと考えて良いと思います。
T→S→T
これはT→S→Tの例です。ローマ数字なら、Ⅰ→Ⅳ→Ⅰです。コードで表すならば、C→F→Cです。こちらは、ドミナントほどではありませんが、やはり不安定なⅣのコードからⅠへ解決する進行です。
短い曲をみてみる
この曲は筆者が適当に作ったものです。わかりやすいように、伴奏部分はコードで書いてあります。これをさらに分析して、先ほどのローマ数字でコードを表してみます。
ドミソのCコードが1でT。ドファラのFコードがⅣでS。シレファソのG7コードがV7でDです。ここで、じっさいの保育実習理論にでてくるような問題に取り組みましょう。曲は上記とおなじものですが、編曲したものを利用します。
下記の楽譜のア~ウに当てはまる楽譜を①~③のうちから選びなさい。
じっさいの試験ではこのような形式で出題されているようです。出題される楽譜は童謡がピアノ編曲されたもののようです。今回はじっさいの童謡ではないので申し訳ありませんがご了承ください。
こういった問題に答えるための手順を筆者とともに学んで行きましょう。
まず、調号をみます。これは調号がありませんので、ハ長調かイ短調だとわかります。そして、童謡はほとんどが長調ですので、ハ長調とみて間違いないでしょう。ただ、不安というかたは1小節目と最後の小節をみて、伴奏部分が何のコードなのかをみるといいでしょう。今回の楽譜は最後の小節がドミソでおわっていますので、ハ長調と判断します。
では、さっそくアの部分から考えてみましょう。アは楽曲の最初ですから、機能和声としてⅠがくると予想をたてます。すると、ハ長調ですから、ドミソの和音が来るだろうと考えます。選択肢①~③の間にドミソで構成されたものはあるでしょうか? ②がそれに当てはまりそうですね。よって、アは②がくるであろうと、とりあえず当てはまりそうなものを選びます。メロディもドレミファですので、コードのドとミがふくまれていますし、あてはまりそうです。
つぎは2小節目をみます。DかSに移動しているでしょうか? 2小節目は1小節目と一緒でドミソで構成されていますね。したがって、コードが進行せずにⅠのままということがわかります。
そして、3小節目のイの部分ですが、ここではいよいよコードが進行するのではないか? と予想をたてます。その上でメロディー部分をみましょう。つかわれている音はラシです。ここまでだと、①のシレファソがつかわれている伴奏と、③のファドシが使われている伴奏どちらがきてもおかしくないような形です。
困ったときは、もうひとつのウをみてみましょう。ウは楽曲の終わりのほうですから、Dがくるのではなかろうかと予想します。シレファソがつかわれているのは選択肢①です。そして、メロディもレシですので、おそらく①だろうと答えを導きます。また、メロディが2分音符と2分音符で構成されていますので、選択肢①の伴奏も、8分音符4個と2分音符ですから、8部音符4個で2分音符1個ぶんということも考慮すると、もっとも適当ということができるでしょう。
よって消去法でのこる選択肢③がイとなります。 イのメロディ部分の最初がラですから、伴奏のファドと合わせると、ファラドとなりⅣだろうと判断することもできます。
まとめ
伴奏を答える問題は、当てはまりそうなものを先にみつけて、消去法で答える方法もありますね。なかなか難しいかもしれませんが予想しながらおそらくこうだろうといった答え方で問題ないのではないかと筆者は考えます。明らかに違うものを選択しなければ、おのずと答えに導かれると思います。
さいごに、完成している楽譜をみましょう。じっさいの音も確認してみてください。すこし変な編曲かもしれません。申し訳ありません。筆者の編曲力不足です……。
一番最初に示した、単純なコードの伴奏の楽譜では3小節目をⅣのみで表記していましたが、厳密に言うと、3小節目でⅣ→Ⅴの動きがあると考えるのが自然だとおもいます。シ→ドへの進行はV→Ⅰのドミナントからトニックへの動きですので、厳密にはⅣ→Ⅴ→Ⅰだと思われます。
楽典の本が一冊でもあると安心ですよ。筆者も高校生の頃にこの本で学習した記憶があります。
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